奈良公園の鹿には気をつけろ! 特に話しかけてくる牝鹿には!!『鹿男あをによし』
デビュー作から次々と映画化ドラマ化マンガ化される人気作家、
デビュー作『鴨川ホルモー』に続く長編第2作です。
タイトルの「あをによし」は万葉集の歌などに使われた奈良を表す枕詞で、「あをによし」とあれば、次は奈良のことが書かれます。
ということで、タイトル通り奈良盆地が舞台の作品です。
さらに「鹿」とあるように、奈良公園周辺で物語は進みます。

鹿がいっぱい奈良公園
ちょっとした事情があって奈良市の私立の女子校に教師として赴任することになった主人公。
奈良にやってきてすぐ奈良公園で鹿に話しかけられ、ある役目を担わされます。
日本を地震災害から守るために大
このあたりは京都で行われる謎の競技「ホルモー」(『鴨川ホルモー』参照)と同じように大昔から行われる伝統で細かいことはわからないという、民俗学的リアリティがあります。
大鯰鎮めの道具は、偶然なのか京都にある姉妹校の人間から受けとることになります。
しかし受け取りに失敗、顔が鹿になるという呪いをかけられてしまいます。
呪いを解くために大鯰鎮めの道具を取り返さなければらないと主人公は考えます。
幸い周りの人間には普通の人間のままに見えますが、鏡に映る自分の顔は日々鹿へと変化していきます。
焦る主人公。
はたして大鯰鎮め道具を取り返して人間の顔に戻れるのか。

奈良公園の牝鹿
顧問になってしまった剣道部の手に汗握る試合や、主人公の周りのいろいろな人間関系の変化など、エピソード盛りだくさん。
ホルモー競技の1シーズン(2年)を追いかけることに専念した(せざるを得なかった?)『鴨川ホルモー』よりもページ数が増えた以上に読み所も増えています。
物語が進んでいくうちに散らばっているように見えたエピソードが一点に集まってくるところが、万城目作品。
奈良公園の鹿は春日大社に祀られる
その鹿に話しかけられます。
奈良公園に行ったことがない人にとっては『もののけ姫』のような世界を想像するかも知れません。
確かに春日大社周辺には神社の杜があって伐採も立ち入りも禁止されていますので、
しかし奈良公園の多くは鹿が下草を食べてしまうので、日当たりのいいところは在来種の芝が覆い、林の中はただ落ち葉と鹿の糞が落ちているだけ。

奈良公園の牝鹿と仔鹿
この作品でも鹿に話しかけられるのはとなりで遠足の小学生がワイワイとおべんとうを食べるようなところ。
『もののけ姫』とちがいなんか世俗まみれた感じがします。
しかし、人間を恐れず、なにか言いたげにこちらをじっと見つめる奈良公園の鹿たちを見ていると、『鹿男あをによし』が実際のあったことで、となりにいる鹿から今にも話しかけられそうな錯覚を感じます。

小学生がお弁当を食べる奈良公園
この作品も2008年に玉木宏さん主演でテレビドラマ化されています。
ただ中心のスタッフが奈良や近畿出身者でないためか、せっかく奈良公園でロケーションしているのに奈良らしさがまったく感じられず、どこか関東のような感じがする、残念な作品になってしまいました。
それなら千葉や埼玉などに舞台を移しても良かったような気がしますが、人間の姿を見ると逃げていってしまうような鹿が話しかけてくることに「もしや」と思わせるところは、日本でも奈良公園以外は、ないのかもしれません。

まだ袋角の奈良公園の牡鹿
前作の『鴨川ホルモー』、そしてこの『鹿男あをによし』、長編3作目の『プリンセス・トヨトミ』(映画はまったくちがう作品と思ってください)と、常識ではありえない話です。
それなのに、京都、奈良、大阪の舞台となった土地に行くと、現実のことかもしれないと思えてくる妙なリアリティーを感じる作品です。
ただ、京都で「ホルモ~~~~~」と言う叫び声を探したり、大阪城の謎の地下施設探したりするのとはちがい、奈良公園へ行く時には近寄ってくる鹿にはご注意ください?
余談ですが。
物語に大きく関わってくる女子高生の顔が魚を連想させるとあるので、もしや「イスマス面」で、地震はオオナマズでなく千匹の山羊が起こしているのかと思ったのですが、この作品ではただの「魚を連想させる顔」だったようです。
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