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海から人間を食べるためだけにやってくる怪獣の恐怖『海の底』


「海」

 『阪急電車』や『フリーター家を買う』の有川浩さんの小説です。

 「自衛隊三部作」と呼ばれる中の1冊、発表順からだと3冊目の本になります。

 3冊とも主人公の一人が自衛官で、必ず物語の中心で恋愛が描かれるのが特徴です。

 物語の舞台となるのがそれぞれ、陸、空、海。

 そして戦う相手が、怪獣。

 そう、怪獣小説です。

海の底
有川 浩著
税込価格:¥740
出版:角川書店
   角川文庫
発行:2009年4月

「怪獣」

 といっても、ウルトラマンなどの子供向け特撮番組に出てくる怪獣とはちょっとちがいます。

 1作目の『塩の街』では、そもそも怪獣かどうかもわからない宇宙から来た謎の存在をめぐる終末SF。

 2作目の『空の上』では、人間と会話ができるだけの知能を持った生命体とのファーストコンタクトSF。

 そしてこの3作目の『海の底』は、人々を襲う化け物と戦う怪獣小説です。


巨大ザリガニ

 ただし相手は高層ビルを壊す100mを超えるような大怪獣ではありません。

 人間とそれほど変わらない大きさです。

 しかし数え切れないほどの数がいて、人間の体など簡単に切断してしまう武器を持ち、拳銃弾をはじき返す装甲を持っています。
 その上、知性はないものの統制のとれた集団行動を行います。

 襲ってくるのはザリガニを大きくしたような甲殻類の生き物。

 人間の大きさの甲殻類。だから怪獣です。


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超巨大節足動物は「怪獣」だ

 なぜなら、甲殻類を含む節足動物が人間くらいの大きさになり、さらに陸上を動きまわるのは無理だと考えられているからです。

 大きな体を陸上で支えるため厚くなった外骨格の中には、十分な筋肉や内臓を収めることができないのです。

 そしてもう一つは呼吸。

 節足動物は陸上に住む脊椎動物のような効率よく酸素を取り入れる呼吸器も、体の隅々に酸素を送る循環器も持っていません。
 だから体が大きくなればなるほど心臓から遠いところから酸欠になるのです。

 ダイオウグソクムシやタカアシガニなど大きな節足動物もいますが、それは体が軽くなる海の中で、しかも体は人間よりもずっと小さく、動きも速くありません。

 脊椎動物が繁栄する前の石炭紀の陸上には長さが2メートルを越える節足動物もいましたが、体は平たくて薄かったようです。


本当の問題は

 じゃあ、『海の底』はリアリティが無い小説なのでしょうか。

 いやいや、そんな子供向け小説ではありません。

 巨大ザリガニ怪獣出現の非現実的な状況に対する警察上層部と国の対応は、いやになるほどリアリティがあります。

 拳銃が効かず人間などものともしない巨大ザリガニに対峙するのは生身の警察官。いくら精鋭ぞろいの機動隊とはいえ、怪獣相手では防衛線を維持するのが精一杯。
 有効な手段を持たないまま負傷者や殉職者を出しながらザリガニの侵攻を食い止めます。


現場の警官が上層部に怒鳴り込めるのなら簡単ですが

 基本的に銃器で武装していない人間に対処すること想定している日本の警察官を前線に並べ、一向に自衛隊に出動要請しようとしない日本政府。

 政府がもたついている間に、防衛線を死守している機動隊が疲労していくと同時に、怪獣が上陸したのが米軍基地なので米軍が爆撃の準備を始めます。
 防衛線が破れるのが先か、米軍の日本爆撃が先か、それとも政府が当然の決断してくれるのか。

 ここでリアリティの無いドラマならば、現場の一警官がコートをなびかせて警察上層部に怒鳴り込んで済むのですが、もちろんそんなことはありません。


怪獣と自然災害

 現場では血が流れ多くの人が傷つき、そして死んでいっているというのに、現場から遠くはなれたところでは有効な手段をまったく打つことが出ないどころか事態を悪化させる方向へと突き進んでいる様子は、まるで東日本大震災時の日本政府のようです。

 もう一つの怪獣小説『MM9』では、怪獣は現実世界のいろいろな自然災害の比喩的な形で現れます。

 この『海の底』の怪獣も同じように解釈すると、涙が出てくるほどリアリティのある小説なのかもしれません。


もちろん「ベタ甘」恋愛もあります


 と怪獣のことばかり書いてきましたが、有川浩さんの小説です。

 怪獣物語が進行していく中で、ちゃんと恋愛あり、いろいろな人間ドラマあり、どう考えても文庫本1冊には収まらないようなドラマが詰め込まれて、それでちゃんと収まっています。


 『海の底』は怪獣小説、恋愛小説、パニック小説、人間ドラマ、政治ドラマ、いろいろな読み方が楽しめる小説です。


◆関連タグ◆ 〔有川浩〕 〔自衛隊三部作〕 【海から迫りくる危機!?】


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タグ: 海の底有川浩自衛隊三部作怪獣SF

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