「ぐあーっ!! 甘塩っぺーっ!!」アニメーション「銀の匙 Silver Spoon」第1期全11話
アニメーション「銀の匙 Silver Spoon」の第1期全11話の放送が終わりました。
映画にもなった「鋼の錬金術師」の作者の荒川弘(あらかわ ひろむ)さんの現在進行中の作品を原作としたものです。
本土とはスケールがちがう北海道の農業高校に入学した主人公の八軒勇吾(はちけん ゆうご)。
実家の農業を継ぐために入学してきたクラスメートばかりの中で、農業とは縁がないサラリーマン家庭で育った八軒は、一年の間は全寮制という農業漬けの中でカルチャーギャップを感じながら、成長していく物語です。
マンガ第1巻の紹介はこちら。
【「その子に名前つけちゃダメだよ?」荒川弘『銀の匙 Silver Spoon』第1巻】
第1期のテーマは「豚丼」。
原作エピソードの順番を入れ替えて、11話でまとまるようにしています。
「豚丼」は入学したての八軒が実習で出会った子豚の名前です。
兄弟との乳房の取り合いに負け、一番乳の出の悪い乳房で育ったためほかより小さい豚に、自分を重ね合わせて思わず名前をつけてしまいます。
しかし農業高校の実習でペットの豚を育てるわけはありません。
食肉にするための豚です。
農家出身のクラスメートに別れにくくなるから名前を付けないようにと言われながら、どうせなら食べ物の名前をつければ、ということで決まったのが「豚丼」。
八軒は豚丼を他の豚に負けないくらい大きく育てます。
そして出荷される時がきました。
悩んだ八軒は、夏休みのバイト代で豚丼の肉を買うことを決心するのです。
そして51キログラムの肉になって帰ってきた豚丼。
八軒はそれを様々に加工して食べます。
この間の八軒の葛藤は、アニメや原作のマンガをご覧ください。
自分が世話をした家畜を食べるというのは、現代社会ではめったにあることではないと思いますが、数十年前の農家では、それほど珍しいことではありませんでした。
もちろん家畜は大切に育てられますが、やはりペットではありません。
大切に育てて、食べる。
家畜を飼っていない現代人にとっては、家庭菜園で野菜を育てることが一番近いかもしれません。
それでもなかり遠いところにあると思いますが。
動物を食べるということは、日常的に行っていることですが、野菜のように育てて収穫して、下処理して、食べ物に調理するという過程をすべて経験することは、今ではまれなことになています。
豚丼も八軒は食肉加工は専門業者に任せています。
しかし、マンガでもアニメでも簡単に流されていますが、八軒は夏休みにとても重要な経験をしています。
夜間車で移動している時に運悪く轢いてしまった鹿を、八軒が解体したのです。
目の前に力なく横たわる鹿は目立った外傷もなくまるで生きているようです。
そこに包丁を立て、腹を裂き、内蔵を取り出し、関節を外し、筋肉を取り、皮を剥ぐ。
マンガでもアニメでもあっという間に終わってしまいますが、実際は解剖学的知識のない八軒にとっては簡単ではなく、時間もかかって力もいる大変な作業だったはずです。
もちろん心理的にも。
本来ならば、徐々に肉になっているシカの様子を、それに向い合う八軒の顔も合わせてじっくりと描いてほしいところです。
作者はどう考えたかはわかりませんが、掲載されている週刊少年マンガ雑誌では、さり気なく流すことが限界だったのでしょう。
アニメもそれに倣っているようです。
哺乳類の動物を殺して食べることに嫌悪感を持つ人がいます。
確かに生きている哺乳動物を殺せと言われればためらうのは当然で、解体されていく哺乳動物を見るのは辛いことと思います。
しかし、寒冷だったり、乾燥してたりして農作物を作ることが困難な地域では、遊牧して動物を食べる習慣を持った人々がいます。
そういう地域では子供の頃から哺乳動物の解体方法を学びます。
それだけでなく、解体した哺乳動物の大切な扱い方も学びます。
そういう人たちの文化に触れていると、動物を食べるということが悪いことには思えません。
たとえば日本で人気のある松阪牛も、解体ショーを行えば人は集まらず、苦情が出るかもしれません。
しかしそれがマグロの解体ショーなら人が集まり、苦情も来ないでしょう。
どちらも同じ動物。
人間と同じで切れば赤い血が流れる骨を持った脊椎動物です。
生き物として違いがあるとは思えません。
これは習慣の違い、文化の違いなのではないでしょうか。
個人の価値観として哺乳動物の肉食を避けるのは尊重されなければならないと思います。
それと同じように、動物を食べることも尊重されなければならないところはあると思います。
もちろん、不必要な殺生はやめるべきだと思いますが。
「ぐあーっ!! 甘塩っぺーっ!!」
八軒が一緒に生活をする高校の仲間とともに「豚丼」を食べた時の言葉です。
アニメでは八軒の声でしたが、マンガでは誰のものかはわかりません。
きっと八軒の言葉であり、みんなの言葉なのでしょう。
八軒は葛藤を覚えながらも、豚丼も鹿もおいしそうに平らげます。
これがすべての答えとは思いませんが、ひとつの答えのような気がします。
そういう意味で八軒の鹿の解体はもっときっちりと描いて欲しかったと思います。
マンガだからできることですから。
まさかBD特典映像になったりして……
アニメの「銀の匙 Silver Spoon」第2期は2014年1月から放送の予定です。

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