銀竜草のタネをまいている動物発見記念
先日、熊本大学からすごい研究が発表されました。
このブログでもよく紹介しているギンリョウソウについてです。
ギンリョウソウ(銀竜草)はツツジ科の多年草ですが、梅雨の間だけに現れる真っ白な植物。
梅雨の間というのは、山の話で、平地ならもうちょっと早くなるでしょう。

真っ白の植物ということは、光合成をしないということ。
栄養は他からもらっているということ。
つまり、寄生植物。
といっても、地下に張り巡らされたベニタケ科の菌類の菌糸ネットワークから栄養をもらっているという、なかなか変わった植物です。
そのギンリョウソウがタネをどうやってばらまいているかがわからなかったのです。
タネをどのようにばらまくかは、植物にとってとても大切なこと。
できるだけ遠くにばらまけるほうが広がることができますし、同じ仲間とも競争にもなりにくい。
でも、そこが育つのに適さないところだと意味がありません。
離れることと、育ちやすいところへ行くこと。
それを叶えるために植物はいろいろな方法を使っています。

たとえば、キク科植物の一部は、小さなタネにふわふわの綿毛を付け、風を利用して遠くへ飛んでいくタネをたくさんつくります。
カキはタネが完成すると甘く熟した実を落としてタヌキなどにタネごと食べてもらい、離れた場所で糞として落としてもらいます。
ヤマハゼのようにトリに食べてもらってもっと遠くへ運んでもらうタネもあります。
羽をつけてとんでいくものもあれば、そのまま地面に落ちるタネもあります。
ギンリョウソウがどの方法を使っているのかがわかったのです。
ギンリョウソウの実の種類は液果。
液果というのは、種の周りを汁気が多い果肉が覆っている実のこと。
果物として食べられるものに多いタイプ。
それもそのはず、液果は食べられることを前提にした実なのです。
もちろん例外もありますが。

ギンリョウソウは、昆虫に食べられてタネを運んでいたのです。
これはとてもすごいことです。
昆虫が植物の実を食べることはよくありますが、飲み込んだタネをばらまくという例はほとんどありません。
それもそのはず、昆虫の小さな体の細い消化管の中を通り抜けることができるタネは一体どれだけの大きさか。
ギンリョウソウのタネの長さは0.3ミリ。もう、ホコリのようなものです。
こんな大きさなら、昆虫の体の中を通り抜けることもできるでしょう。
しかしホコリのようなタネというのは、芽を出して育つ栄養が少ないか、ほとんどないということ。
それにギンリョウソウは光合成をしないので、タネの近くに寄生する菌糸がなければどうにもならないでしょう。
つまり、菌糸の近くに連れて行ってくれる昆虫です。
その昆虫は。
ゴキブリ!
ただし、あまり馴染みのないゴキブリ。普通の人にとっては。
名前はモリチャバネゴキブリ。
チャバネゴキブリではありません。モリ+チャバネゴキブリ。
名前のように、森や林の落ち葉の下にいるゴキブリです。
落ち葉の下、菌糸のあるかもしれないところで糞をするでしょう。

チャバネゴキブリは「||」
ギンリョウソウが世界で唯一ゴキブリにタネを食べて運んでもらう植物。
そして、世界で3番めにみつかった昆虫に実を食べさせてタネをはこんでもらう植物。
そんなすごい植物が身近にあるとは思ってもいませんでした。

ギンリョウソウのタネを運ぶモリチャバネゴキブリは、落葉が積もった森や林があれば、どこにでもいるような普通の昆虫。
ベニタケ科のキノコもそれほど珍しいとは思いません。
でもギンリョウソウはどこにでも、というわけではありません。
モリチャバネゴキブリとベニタケ科の菌類の力だけではギンリョウソウは生えないようです。
ギンリョウソウの別名は幽霊茸。
その名前のように、思わぬところでひょっこり出会うちょっと不思議な植物です。
■参考外部リンク■
世界初! ゴキブリに種子を散布してもらう植物を発見 - 熊本大学

タグ: ギンリョウソウ モリチャバネゴキブリ 種子散布

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