昔の日本のうつくしい自然と 人々の暮らしと ふしぎないきものの ものがたり「蟲師」と「蟲」
昔の日本のどこかで
「蟲師」。漆原友紀(うるしばら ゆき)さんのマンガです。
「蟲(むし)」と呼ばれる目に見えない不思議な「いきもの」とその専門家の「蟲師(むしし)」と普通の人々の物語。
「ファンタジー」の類に含まれるかもしれませんが、明治から昭和初期を思わせる架空の時代の、日本のどこかにありそうな架空の山村漁村を舞台にした物語は、昔の日本で実際にあったのではと思わせるところがあります。
![「蟲師」に登場しそうな風景[飛騨民俗村・飛騨の里]](http://blog-imgs-67.fc2.com/i/k/i/ikimono8000/123201.jpg)
「蟲師」に登場しそうな風景[飛騨民俗村・飛騨の里]
■参考外部リンク■ 飛騨民俗村・飛騨の里
ふしぎないきもの
ファンタジーと言っても英雄が極悪非道な怪物を倒すというのではなく、ふしぎな蟲が引き起こすふしぎな現象を、解決できなくてもいい方向へ向かわせるのが蟲師。タイトルは「蟲師」ですが、物語の中心にあるのは「蟲」。
「虫」ではありません。
「虫」が3つ集まったあまり見慣れない漢字の「むし」です。
「蟲」と「虫」
「蟲」は「虫」の旧字体です。しかしもともと「蟲」と「虫」はちがう文字。
今では「虫」は昆虫やクモなど節足動物をまとめた意味で使われますが、それはもともと「蟲」の意味。
「虫」はヘビを表す象形文字(しょうけいもじ)で、特にマムシのような毒蛇を指します。
「蟲」は小さな生き物がいっぱい集まっている様子を表して会意文字(かいいもじ)。 まさに「むし」です。
「蟲」の省略体として「虫」を使うようになってから、「虫」は本来の意味が薄れてしまい、かろうじて辞書に載っている程度になったようです。
![]() 殷時代の「虫」 およそ3000年前 |
![]() 春秋戦国時代の「蟲」 およそ2500年前 |
※書体は四川辞書出版社の『甲金篆隷大字典』を参考にしました。
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蟲
「蟲師」の「蟲」について、1巻の冒頭にこうあります。およそ遠しと されしもの
下等で奇怪 見慣れた動植物とは まるで違うと おぼしきモノ達
それら異形の一群を ヒトは古くから 畏れを含み
いつしか 総じて「蟲」と呼んだ
物語の中では、原因がわからないふしぎな現象、自然現象から病気に至るまで、多くのふしぎな現象に蟲がかかわっているとされます。
「疳(かん)のムシ」や「三尸(さんし)」のように、実在しない架空の小さな生き物も「蟲」とよばれていましたので、「蟲師」の「蟲」にふさわしい漢字です。
作者も旧字が使われていた時代の物語であることを表すためだけでなく、現在の「虫」と区別するために「蟲」という字を使ったのではないでしょうか。
蟲師の役割
物語は蟲によって起こされる様々なふしぎな現象に戸惑う人々を、主人公の蟲師のギンコが助ける短いエピソードが積み重なっています。ただ「助ける」といってもギンコができるのはその時できる最良と思えることまで。
必ずしもすべてが丸く収まるハッピーエンドではありません。
もちろんボスを倒せば呪いが解けて元通り、という作品でもありません。
蟲によっておこされる様々な出来事を、それに関わる人々の喜びや悲しみで綴っているのが「蟲師」の物語です。
映像化
2005年から2006年にかけてアニメーション化、2007年には実写映画化もされました。2014年1月には新作のアニメが放送され、4月からは新作として原作すべてのエピソードをアニメ化する予定だそうです。
人々の物語と同時に、アニメ版では鮮やかな映像で表現される日本の自然の美しさも見どころの一つになっています。

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