空を飛ぶというのは想像するほど簡単じゃない『巨大翼竜は飛べたのか』
タイトルから想像すると、1冊まるまる翼竜の本のように思えます
しかしそうではありません。
なら恐竜の本かというと、そうでもありません。
佐藤 克文著
『巨大翼竜は飛べたのか スケールと行動の動物学』
平凡社新書
基本は海鳥の本です。
著者は海鳥の専門家。
もちろん、生きている鳥たちです。
どうして海鳥の専門家が大昔に絶滅ししてしまった生き物について書いたのかは、本の終盤に翼竜が出てくるとわかります。
まずは翼竜について。
翼竜はその形から空を飛んだと思われる爬虫類の一種です。
しかし恐竜が誕生する前に分かれて独自に進化したので、恐竜のグループには含まれません。
しかも出現は中生代のはじまりの三畳紀で恐竜と同じ。
古い生き物です。
そして空を飛ぶといっても鳥とは進化的なつながりはありません。
鳥は恐竜から進化しましたから。
どうしてそんなに海鳥から遠い存在を著者は扱ったのでしょうか。
著者の研究の方法は、生き物を扱うだけにフィールドワーク。
しかもデータロガーと呼ばれる装置を生き物につけて、人間が見えないところでどのような行動をしているのかを調べようという研究です。
著者の研究対象の一つがペンギン。
ペンギンというと最近は「行動展示」の動物園や水族館などで、空を飛ぶように泳ぐ姿が見られるようになりました。
ペンギンが海の中を泳ぐ姿を見ることができるのですから、無理して高価な装置をペンギンにつける必要はあるのでしょうか。
ところがあるのです。
動物園や水族館のペンギンは飼われているので、食べ物の心配がいりません。
しかし自然界のペンギンは子育てのために海に潜って魚を追いかけ、それを食べ続け、巣にもどって子供に与える、というような生活をしています。
もちろん泳ぐ場所の広さも違いますし、自然界では天敵もいます。
種類によっては、巣から海まで何日も歩きます。
そんな自分や子供の命のかかった状況で餌を大量に捕まえるのですから、餌や天敵の心配のない水槽で泳ぐのとは、ちがって当然です。
いくら行動展示といえども、動物園や水族館のペンギンは自然界のペンギンとは泳ぎがちがうのです。
そのように直接観察できないペンギンの動きを知ることができたデータロガーも改良され、空を飛ぶ鳥につけられるようになりました。
空を飛ぶというのはとんでもない行為で、翼の大きさや形、羽ばたく回数、跳ぶために必要な筋肉の量や体の形。
さらに風や気流などの自然条件
それらが複雑にからみあって飛ぶことができるのです。
机の上の計算だけでは想像もできないことばかりですが、データロガーにより次第に鳥が飛んでいる状況がわかるようになります。
それらを復元された翼竜の姿に照らし合わせると、古生物学者とはちがった予想が次々と現れるのです。
鳥と翼竜は進化の関係はもちろん、翼の構造もまったくちがいます。
鳥で分かったことをそのまま翼竜に適応することに古生物学者は反対します。
しかし飛ぶというきわめて物理的な行動を考えるとき、今の鳥であっても、昔の翼竜であっても、関係する法則は変わらないはずです。
その範囲であるのならば、鳥のデータを翼竜に使うことができても不思議はありません。
![もしかしたらケツァルコアトルスよりも大きいかもしれない翼竜プテラノドン[大阪市立自然史博物館]](http://blog-imgs-17.fc2.com/i/k/i/ikimono8000/063501.jpg)
もしかしたらケツァルコアトルスよりも大きいかもしれない翼竜プテラノドン
[大阪市立自然史博物館]
広げた翼の幅が12メートルといわれる最大の翼竜ケツァルコアトルスも、実は翼の骨は一部しか見つかっていなくて、そんなに大きくなかったのではないか。
など、今までの古生物学の世界とはちがう説がどんどん出てきます。
そのすべてが真実かどうかはわかりませんが、飛ぶという行為を具体的に研究した専門家の話は説得力があります。
大きな翼に小さな胸、アンバランスな大きな頭。
本当に大空を飛んだのかと疑いたくなる翼竜にリアリティを与えてくる本かもしれません。
ただ、翼竜に直接関係する部分は本の一部。
翼竜にしか興味のない人は、読んでもまったくおもしろくないかもしれません。
しかし、いきものに興味のある人にとっては、とてもおもしろい本だと思います。
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