たしかに粘菌にはびっくりするような”能力”があります!『粘菌 その驚くべき知性』中垣俊之著
その名の通り粘菌(ねんきん)の本です。
あまり聞きなれない「粘菌」が複雑な迷路を解いていくことについて書かれたのがこの本です。
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著者は中垣俊之さん。
この迷路を解く粘菌についての研究で2008年にイグ・ノーベル賞の認知科学賞部門を受賞した粘菌の研究者です。
あまり耳にしない「粘菌」について簡単に説明すると……
とても難しいのです。
今は「変形菌」と呼ばれることも多いようですが、この本では一般的に知名度が高そうな「粘菌」を使っています。
落ち葉の下や朽ちた木の上などにカビのようにべったりと広がってい、どこにでもいる珍しくない生き物です。
見た目からカビやキノコの仲間のように扱われることが多いですが、どちらとも決定的にちがう特徴を持っています。

モジホコリの仲間?の粘菌?
粘菌は胞子で増えますが、「動く」ので明らかにカビやキノコとちがいます。
粘菌は食べ物を求めてどんどん広がっていきます。
それだけだとカビと同じです。
しかし粘菌はどんどん広がるだけでなく、広がった分後ろ側がどんどんなくなっていくのです。
つまり、アメーバのように移動しているのです。
もちろん、カビは広がりこそすれこのように「移動」はしません。
この粘菌が移動して迷路を「解く」といっても、ダンゴムシのように歩いていくわけではありません。
迷路の入口と出口に餌を置くと、迷路の中に広がった粘菌が次第に入口出口を最短ルートで繋ぐ線になっていくのです。
たまたまの偶然ではなく、何度やってもだいたい同じような結果になるのです。
中には最短にならないものもあるのですが、それでも最短に近いルートになります。
粘菌は脳も神経も持たない単細胞生物。
ものを考えることなど出来るわけがありません。
それなのに迷路の最短コースがわかるのです。
とても不思議です。
いや、脳があって考えることができる人間でも、迷路を解くことができても最短コースを見つけるのはそう簡単ではないでしょう。
ということは、最短コースを見つけるのに脳は必要ないのかもしれません?

今は変形菌でなくなってしまった原生粘菌ツノホコリの仲間?
この本にはとても面白いことが書かれています。
脳も神経もない体細胞生物の粘菌が迷路を解く不思議の前に、人間の脳がちょっとだけ引き合いに出されます。
人間は脳から出る命令で体を動かします。
意識的でも無意識的でも一部の反射を除いて脳が「司令官」となっているのです。
では、その脳そのものを動かすために誰が命令を出しているのでしょうか。
実は脳の中にも外にも脳をコントロルする司令官のようなものは見つかっていません。
特定の司令官ではなく、脳全体でバランスを取りながら複雑な脳自身の活動をコントロールしているのです。
そう。
迷路を解く粘菌と同じなのです。
中心となる司令官無しで行動を起こすという点で。
人間とものすごく遠いところの生きものの粘菌を研究していて、それが人間の脳に近づいてるかもしれないことはとても面白いことです。
しかし粘菌も人間も同じ地球の生きもの。
先祖をたどっていけば一つになるところがあるはずです。
つまり、粘菌の迷路を解く機能と人間の脳の機能で同じ仕組みが働いていたとしても不思議どころか当然のことかもしれません。
身近でありながら知られていない粘菌についての本です。
必ずしも事細かに生物として粘菌の説明がされているわけであありません。
でも、迷路を解く不思議な粘菌の謎が人間にも繋がりそうになるなど、生き物好きにとってはドキドキワクワクする本です。
タグ: 粘菌その驚くべき知性 中垣俊之 変形菌 動物行動 粘菌

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