「蟲師」。
明治か大正か昭和初期か定かでない時代の日本のどこかを舞台とした、変わった“生き物”の「蟲(むし)」とその専門家の「蟲師(むしし)」と人々の物語。
漆原友紀(うるしばら ゆき)さんの作品です。
「蟲」と「蟲師」
「蟲」について、1巻の冒頭にこうあります。
およそ遠しと
されしもの
下等で奇怪
見慣れた動植物とは
まるで違うと
おぼしきモノ達
それら異形の一群を
ヒトは古くから
畏れを含み いつしか
総じて「蟲」と呼んだ
「蟲」とは目に見えない、この世のあらゆる生命よりも命の源流に近いもの、とされます。
ときに人に害を与えることがあり、それを治したり防いだりするのが「蟲師」。
主人公の蟲師ギンコが日本を旅しながら蟲で困る人々と出会っていきます。
日本らしい自然と不思議な生き物の「蟲」が織りなす美しく時には悲しい物語。
2005年から2006年にかけてアニメーション化、2007年には実写映画化もされました。
2008年に第10巻が出版され、現在最終巻となっています。
それから5年と少し、2014年1月に新作とそのアニメーション化された作品が公開されました。
それが「日蝕む翳(ひはむかげ)」。
「日蝕む翳」
日食が起こり日が陰ると無数の蟲が現れます。
「日蝕み(ひはみ)」という蟲も空に現れ、小さな蟲を取り込みます。
ところが日蝕みは日食が終わっても空で太陽を隠したまま。
日食と思って現れた蟲を取り込み続けます。
日蝕みは直接人間に何かをするわけではありません。
しかし、太陽を隠されると農業はもちろん日常生活にも支障が出てきます。
日蝕みの退治方法は、地面の下に残った“根”に光を当てること。
“根”は地面の下に隠れていますが、その場所には異変が起き、本来その時期には咲かない花が咲いていたりします。
そして見つかったのが林の中で季節外れの花が咲く場所。
薄暗い林の中で小さくて白くてきれいな花が一面咲いています。
そこを掘り返すと、果たして日蝕みの“根”が見つかりました。
日蝕み退治と、日蝕みの亜種の月蝕みによって特異体質になってしまった双子の姉妹の話を折込みながら、物語は進んでいきます。
節分草
日蝕みの“根”の上で咲いていた季節外れのきれいな白い花。
これは架空の花ではないようです。
おそらくセツブンソウ(節分草)。
キンポウゲ科の多年草。

花の文化園のセツブンソウの花
春先、落葉広葉樹の林床で咲きます。
樹木が葉を伸ばす前、太陽光が林床に届く間に葉で栄養を作り花を咲かせようという作戦です。
ちょうど節分の頃に咲くことが名前の由来と言われていますが、地域によって節分から離れた時期に咲くことも少なくありません。
「日蝕む翳」は、服装から温かい季節の話のようです。
セツブンソウが咲いているのも葉が茂って薄暗くなっている林の中。
もちろん本当ならばセツブンソウは花も葉も枯れ、地面の上には何も残っていない時期です。

たくさん咲いている花の文化園のセツブンソウ
セツブンソウは関東以西の本州の落葉広葉樹林で石灰岩を好むということで、生息場所が限られる植物。
見た目の美しさから盗採が後を絶たず、そのうえ開発による環境の変化などで減少、環境省のレッドデータブックでは準絶滅危惧種。
まだ絶滅の指定はないものの、西本州の15府県で何かのカテゴリーに指定されています。
ただ条件を整えれば栽培はできるようで、栽培している植物園も少なくはないようです。
アニメーションの中では、白い花弁(はなびら)がおぼろげに光を発しているようでした。
実際のセツブンソウは残念ながら蛍光は発しませんが、キンポウゲ科の花らしく太陽の光を受け光っているように見えます。
白い透き通るような花弁は、実は萼(がく)。
本来の花弁は退化して、先に蜜腺(みつせん)をつけオシベやメシベと並んでいます。
先が黄色くなっているオシベのようなのが、花弁が変化した蜜腺です。

日蝕みがいなくてもおぼろげに光っているような花
花の文化園
大阪南東部の植物園、花の文化園ではちょうど節分の頃から咲き始めます。
場所は梅園の中。
梅の花の季節まで咲いていることも珍しくはありません。
花の文化園は毎月第3日曜日にコスプレの日を設け、コスプレイヤーに更衣室の無料開放などを行っています。
2月にも開催されれば、ちょうどセツブンソウの花の時期と合うかもしれません。
蟲師レイヤーは狙い目かも。
ただしかなり寒いと思いますので防寒対策は必須でしょう。

セツブンソウが咲く花の文化園の梅園
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